DRILL DESIGNの場合 <5>


Photo:Sohei Oya(Nacasa&Partners)


リ・デザイン。
音楽とデザインは似ている?


林さんは建築学部で椅子の講義をされていますが、「リ・デザイン」について話されることもありますか?
ものや道具には原型があって、そこからいくつものバリエーションが生まれ、たまに革新が起こる、とか。
林:機会があれば話すこともありますが、学生たちは、そういうことはほぼ意識していないですね。
学生たちが「リ・デザイン」を意識したときのリアクションはどんな感じですか?
若いときは、オリジナリティとかそうしたことにこだわりますけど。
安西:「リ・デザイン」という考え方に興味をもっている学生はどれくらいいるのかな。
林:あまりいないかもしれないです。
安西:ゼロからオリジナルでデザインしたいと思うでしょうね。
林:ウィンザーチェアに関しても構造的に理解するのか、それとも雰囲気みたいなもので理解するのか人によって、学生によってぜんぜん違いますね。どちらが良いということじゃなくて、それぞれの解釈で、こういう椅子が好きというのがあればいいんじゃないかと思っています。
安西:私の場合は、椅子のデザインを手がけてみて、ゼロからではないもの作りの世界があるんだと気付いたように思います。椅子はとくに歴史が長いので、見たこともない椅子を作る意味よりも、歴史のなかで積み重ねられてきたものをどう引き継いで、そこに新たなクリエイティブを加えていくかが大切だと思うようになりました。
すべてのデザインが同様ではないですけれど。そういうものって世の中にいくつかありますよね。
例えば音楽。音楽ってものすごく歴史が長く、いろんな作曲をしてきて、クラシック音楽だとベートーベンがやり尽くしたという話もあるけど、その先に新しい楽曲を作っていく意味や手法を生み出す難しさがある。
そこは椅子の場合と似ていて、基本の構造があるんですよね。基本の構造があって、それをどういう風に編集するか、どういう風に新しくするか、みたいなところでものを作っていく。歴史が長いものって必然的にそうなってくる。それだけデザインするのが難しい。椅子の名作は今までにいっぱいあるのに、なんでまた新しい椅子をデザインするのか?って聞かれると答えづらいんですけど、それが面白いと感じているからやっているんですよね。今まであった歴史的な創造を引き継いで、さらに新しい答えを出していくのが面白いと思うからやっていて、それが最終的に売れたら一番いい。
椅子のデザインは文化的側面がすごく強いジャンルだと思います。新たなものが必要とされているかというと、音楽と同じでそうじゃないかも知れない。けれど、新しいものを生み出していくこと、やり続けていくことが、なんというか人類にとって大事なような気もする。だからやっている。
ただ生きていくならパンと水でいいって終わっちゃうけれど、そうではなくて美味しい料理をつくりたいよね、いい音楽を聴きたいよね、新しい音楽が聴きたいよね、みたいなとことと似ていると思います。




人の記憶に触れるウィンザーチェア。
その「型」を知って型を破る


同感です。
お二人にも以前は、新しいものを作らなくちゃいけない、みたいな考えに捕らえられている時期もあったんですか?
安西:ありました最初は。
そこからデザイナーとしての考え方が変わっていく機会は何だったんでしょう?
安西:私は「ビートル」をデザインして形になり、そこからまた次の椅子を考えている時に、ぐっと変わっていった気がします。それまでは日用品のデザインだったので、白紙からのクリエイティブが成り立っていたんですけれど、「ビートル」を機会にそうではないやり方が椅子の世界にはありそうだ、と考えながら今まで来たと強く感じます。
そういう意味でも、デザイナーにとって椅子のデザインと向き合うことって、根本的なあり方を試される重要なプロジェクトなんでしょうか。
林:僕たちの場合、最初の椅子の依頼は「ローコストの木の椅子」という条件がすべてだったので、その新しいアイデアと向き合った。でも、アイデアはロジックの部分であって、それよりも記憶とか、ロジックでない部分を大切にしてみたいと気づいたんです。人の記憶とかもっと直感に訴えかける何かです。
そして、それがどこから来るんだろうと考えたら、記憶ってやはり、小さい時に見たとか、どこかで古い椅子を見たとか、歴史というかなにか長い年月をかけて生き残ってきた形式だったりするんではないかと。
そう腑に落ちたのが2010年だったかな。 で、まずはきちんと型を知った方が良いと思いました。
歌舞伎俳優、坂東玉三郎の座右の銘に *9「型破りな演技は、型を知らずにはできない。型を知らずにやるのは、型なしというのだ」っていう有名な言葉があるんです。
安西:この話はウィンザーチェアのプロジェクトでよく話しました。型破りをするなら型をちゃんと理解していないと新しいものはできないんだと。
林:生き残るっていうのは必ず何かしらの理由があって、それは事細かに説明はできないんですけど、生物と同じで淘汰されない強さがあるからだと思うんです。で、そこを大事にしていきました。



*9 玉三郎を襲名した14歳当時、師匠である守田勘弥から言われた言葉(NHK 「プロフェッショナル 仕事の流儀」より)。十八代目 中村勘三郎の座右の銘としても知られ、彼はTBSラジオ「全国こども電話相談室」で、僧侶で教育者の無着成恭が回答した言葉と明かしている。






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