DRILL DESIGNの場合 <4>


▲「WR」ラウンジチェア / TOU / Photo:Takumi Ota



ウィンザーチェアの進化は続く。
ラタン製への挑戦。


林:ラタンのシリーズ「WR」は純粋に、ウィンザーチェアをラタンで作るとどんなのになるかなっていう、興味から始まりました。結果的に、ラタンは軽いし曲げも自由にできるのですごく向いていますね。その代わり、脚の構造はけっこう難しく、(クラシックなウィンザーチェアの構造にはない)ボウバックのフレームを脚にまでつなげたり、と構造的には色々と工夫をしています。
とても綺麗な仕上げですね。どちらで製作しているんですか?
林:これはインドネシアのチルボンってところですね。
インドネシアは編みの技術で有名ですけれど、スピンドルを刺すなど、従来の彼らの技術でない部分も全行程、同じ工場で行なっているんですか?
林:そうです。ウィンザーチェアって元来は、スピンドルがいっぱいあるものを手仕事で作っていたじゃないですか。インドネシアのこのラタンメーカは今もすべて手仕事です。だからスピンドルが多い椅子をかつてのように作る作業も向いているのかなって感じがします。
挑んでみたら難なく習得できて、製作してくれている感じなのかもしれませんね。


▲インドネシアの職人による手仕事の様子





▲「WR」デザイン検討のためにスタジオ内で製作される1分の1模型



これはシリーズで展開しているんですか?
安西:はい、シリーズ展開で、ウィンザータイプはラウンジチェアとサイドチェアと2種類あります。
林:ラウンジチェアはハンス・ウェグナーの「ピーコックチェア」くらい大きいですよ。
「ピーコックチェア」ってスケール感がとても面白い椅子で、ウィンザーチェアをあのボリュームでデザインしたのはウェグナーが初めてなんじゃないかなと思っています。完全なるラウンジチェアですね。
それまでのウィンザーチェアって、ラウンジチェアなのかダイニングチェアなのかよく分からないボリュームみたいなものが伝統的に多いんです。「リキウィンザー」も座面がちょっと低くてラウンジっぽいボリュームなんですけどダイニングチェアだったりする。コテコテのラウンジチェアのサイズ感でデザインするのに、完全なるラウンジチェアではないんです。そんな点からも、ウィンザーチェアってやっぱりおもしろい椅子だなあと再認識させられましたね。


▲本展覧会 Gallery1にて展示中の「ピーコックチェア」


ところで、このシリーズにはウィンザーのラインだけでなく「ミンチェア」形式もあるんですね!
林:はい、ウィンザーのラタン「WR」のほかに、シェーカーのラタン「SR」、そしてミンチェアのラタン「MR」があります。
椅子の潮流を学んだ人が見たら、えーって驚きますね(笑)
安西:椅子の教科書みたいな(笑)
林:ラタンをこうしてクラシックな椅子の形式に応用していくと、(従来の)構造から逸れて独特なにならざるを得ないものなので、「リ・デザイン」し甲斐があってとてもおもしろいですね。


▲(上から)シェーカー「SR」、ミンチェア「MR」 / TOU / Photo:Takumi Ota


マテリアルが変わることで、意図的でなく自動的にリ・デザインされるんですね。
ドリルデザインは、椅子のシリーズのなかにこうして異なる形式を採り入れていますけど、なかでも虜になったのがウィンザーだったという点は興味深いです。
林:そうですね。ウィンザーチェアーの構造って、要は脚と背が繋がってないじゃないですか。座面で一回分断されるでしょ。それが、ほかの椅子と違う見た目のなんとも言えない印象を生むというか。
脚と背が分断されることでもたらされる雰囲気…
林:これはシェーカーですけれど、この4本、背柱が脚と繋がるっていうのがわりと一般的な椅子の認識になると思うんです。でもウィンザーになるとぜんぜん違うんですよね。


▲「ビアガーデンの椅子」


林:これは「ビアガーデンの椅子」って呼んでいるんですけど、ドイツとやスイスなど比較的高緯度の場所で針葉樹を使って作る椅子ですね。
安西:針葉樹は柔らかいので棒にしても弱いので、木の塊で椅子を作りますよね。針葉樹の地域の人たちは、この「ビアガーデンの椅子」のような面材の椅子を作っていて、広葉樹ではウィンザーやシェーカーのような棒材でつくった椅子だった。
針葉樹と広葉樹の生息地域によってそれぞれ、ものの構造やフォルムが自然に決まってくると。
林:いろいろな椅子を見てきたなか、そんな気がしています。材料が構造や部材の太さを決めているんだなと。
ドリルデザインは、ウィンザーチェアをラタン製にまで進化させたわけですけど、これからも現代のウィンザーに挑みますか?
林:やるんじゃないでしょうか(笑)、まだ分からないですけど。
これからさらに挑戦しようとしていることもありますか?
林:ウィンザーのラウンジはやりたいなと思っています。ラタンのラウンジをやった時に<Time & Style>からこのタイプを木で作ったら? という話もありましたが、すでに「ピーコックチェア」が存在するので難しいなんて話もしました。
「ピーコックチェア」とはぜんぜん違う構造でボリューム感のあるものを作ってみたいなという、アイディアの断片みたいなものがいくつかあったりするんですけどまだ模索中ですね。
まだまだウィンザー道は続く
安西:はい、ゆっくりと。





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