DRILL DESIGNの場合 <2>



ウィンザーチェアのシンクロニシティ :《Windsor Department》 誕生

このプロジェクト以来、椅子のデザインは集中してウィンザーになっていったんですか?
林:「ビートル」をね、ミラノサローネのサテリテに出展したんです。で、そこにタイム アンド スタイルの社長が訪れ、日本に帰ったら一緒に仕事をしようと言ってくれて…、こうして「ヴィレッジ」の開発が始まって、以来ウィンザーにのめりこみましたね。
サテリテに展示したのはいつですか?
林:アイスランドで火山が噴火した年だから2010年です。 で、日本に戻ってヴィレッジのプロジェクトを始め、模型を色々作っていた時に藤森さんがうちにやってきた。
そこでついに(笑)
林:そうですね。
当時うちの事務所に、検証中だった「ヴィレッジ」の原寸模型が何台かがあったのを見た藤森さんが「ウィンザーやっているんだ!」と。藤森さんは展覧会のためにフォルケ・パルソンの「J77」のリ・デザインの椅子を作っていたんですよね。そこでお互いに、興味ある、いや僕もだ、という話に。
藤森さんは椅子に詳しいし、僕らは椅子について話をする人もいなかったので、定期的に集まって椅子の話をしよう、研究会を始めようというノリになったんです。さらにイノダ+スバイエを誘って始まって、ならば展覧会もしようという話になった。
安西:2011年に一回目の展覧会を開催しています。
ウィンザーチェアを作っていたわけではないイノダ+ズヴァイエに声をかけたのはどうしてですか?
林:まず、家具がめちゃくちゃ好きで、いろんな椅子のことをよく知っていて話が盛り上がれる人がよかった。
当時、*7「PROTOTYPE展 」という芦沢啓治さんが企画した展覧会があるんですけど、その第3回目にイノダ+スバイエがすごく美しい彫刻的な椅子を出展していて、そこで僕は彼らを初めて知りました。スバイエはデンマーク人で椅子オタク。そこで、ウィンザーチェア研究会をやるならやはり海外の視点が入った方が面白いよね、と。
木工家具を手掛けていることも重要な要素だったんでしょうね。
林:そうですね。当時のイノダ+スバイエは確か製品化された椅子はまだなかったんですけど、木工、椅子でやっていくんだっていう気迫がすごかったです。藤森さんは既に多くのメーカーと椅子デザインの仕事をしていて、僕らはそれまで日用品のデザインが多かったので、椅子では新参者でしたね。でも藤森さんは、僕が椅子オタクだし、こういう話できる人がいないからっていう風に言ってくれて。
そうですか。デザイナー同士で集まって研究会をするなんていいですね。ウィンザーチェアやっているの?って、お互いをライバル視せず一緒に研究会やろうって、すごくいい関係性です!
どんな研究からスタートしたんですか?
林:最初はウィンザーチェアってなんだろう?という話しが多かったかな。毎回テーマを決めて、それぞれの試作を見ながら意見を出していきましたね。そこから進化してそれぞれが自主的なテーマを持つようになっていった。


*7 デザイナーのアイデアや思考方法を製作プロセスとプロトタイプを通じて読み解く展覧会。全4回開催された。



▲「VILLAGE」



ドリルデザインによるウィンザーチェアの再構成

林:ドリルデザインとしてはじめに試みたのは、「ビートル」では、作り方をそぎ落とすこと、「ヴィレッジ」では、ウィンザーらしさを保ちながらどこまで構成要素を削ぎ落とすことができるか、でした。その雰囲気をキープする「らしさ」が一体何によるんだろうということにすごく興味があったので、とにかく部材をミニマムに削ぎ落としたウィンザーチェアを作ろうと思ったんです。スピンドルも何本にするか初めはすごく悩みました。4本だと、うんうん、いい、いいみたいな。で、3本にするとなにか違和感を感じ始めた。
スピンドルが3本の場合も「ビートル」のようにアームがつくと、3本じゃなくなるわけだけれども。
林:そうなんです。3本だけの場合だと上に向いて広がっていったほうがいいんだけれど、そうすると構造上の難しさが出てくるので、色々と試みてこの形に収まりました。
一方、「ヴィレッジ」では、木材の座面に差し込む従来の構造を試みたいと思っていました。でもね、ムクの木材の座面はやはり反るんです。反ってくるので、脚にH型の貫を入れることになる。
安西:脚に違いが出ますよね。典型的なクラシックウィンザーの場合はH型の貫が入るんです。貫がないと脚が広がってグラついてしまう。


▲ 貫の構造のスケッチ


林:座面がこう反ってきても、脚が開いたりしないようにするためH型の貫が重要になります。 でも、もし座面が合板だったら反りの心配が少ないので貫が要らないんですけど、ムク材だとどうしても対策が必要になる。そこで、貫を取ってそのかわりに、台座の様なものを座面裏にクロス状にして、で脚をつける。
座面の裏にですか?
安西:はい。けっこう太い部材なので、座面の反り止めになっています。


▲ 座面裏の構造


林:そう、多くのウィンザーチェアは、脚は角度をつけて*10四方転びで作るんですけど、ホゾが完璧にぎゅっと入らなくて斜めになるから、差し込みの隙間がちょっと残るんですよ。その収まりが気に入らなかったので、このクロス状の反り止めにぴったりと合う角度をつければそれも解決する。
安西:貫があることで、ウィンザーチェアはちょっとモタッとした印象があると私たちは思っていたので、貫をなくしたかったんです。部材を少なくするというコンセプトで進めたと言いましたけど、貫をなくすために上に反り止めをつけて、見た目には4本の脚がすっと出るようにしたのでクラシックなウィンザーチェアとは雰囲気が変わって、すっきりした印象になった。ウィンザーチェアってギシギシと音がなるんですけれど、そういうこともなくなって頑丈になりました。


▲「VILLAGE」開発時の原寸模型


たしかにウィンザーチェアは経年とともに緩んでくる印象がありますね。
安西:そう、緩んでくるとスピンドルもギシギシ、脚もギシギシ鳴る。そうなってきたら解体してまたリペアできるところがいいっていう考え方もあります。
林:ウィンザーチェアは全体のバランスで強度が保たれている椅子だよね、ってよくみんなで話すんです。スピンドルの数を増やすことによって座面に加わる力を分散できて、スピンドルの本数が多ければ1本1本が少し緩く入っていても壊れないんですね。今の木工技術があればホゾと同型の孔をビッて開けて、角度まで精度高く作れますけど、昔、手回しのドリルなどで作っていたころは、孔が若干大きめになっていたりして、隙間を接着剤で埋めています。
安西:だからギシギシいうのよね。
林:手の込んだものはさらに楔などを打っているんですけれど、普通はスピンドルに力を分散させてバランスを保っています。一方で僕たちは、いかにスピンドルを減らすかを考えました。数が少ないと1本1本の部材に加わる力も強くなるので、部材はあまり細くできない。精度よくホゾを開け、太めのスピンドルでカチッと止めちゃうという作り方です。
安西:精度の高い現代だからできる形であって、おそらく200年前はこれでは長持ちしなかったでしょうね。
そういう意味で、ドリルデザインとしてはあえて手よりも機械ならではの精密さでスピンドルも脚も固定して仕上げ、ギシギシ感のない椅子を作ったんですね。
安西:「ヴィレッジ」は量産を前提とした現代の形を意識してデザインしています。


▲ 「CREST」/ Photo:Ryokan Abe



軽さを目指してみたけれど・・・「CREST」クレスト

安西:こちらは「クレスト」です。製品化はされていません。
やはりチャレンジングなプロジェクトですか?
林:「クレスト」は「ヴィレッジ」の延長線上のプロジェクトなんです。「ヴィレッジ」が重めなので軽量化を目指しました。
形式はボウバックですね。
林:そうです。ミニマムなボウバックにできないか、一番シンプルなボウバックの構成ってどんな形だろうと色々と考えて、さらに軽量化を目指してデザインした椅子です。背は曲木ではなく、いわゆる「スーパー成型」という、木を薄くスライスして型にはめて、接着しながら曲げるという技術。
無垢材にしか見えませんね!
林:普通の成型合板だと木目を交互に重ねるので断面にどうしてもストライプ模様が出るんですが、これは一本の木をスライスして曲げているので無垢材にしか見えないんです。「クレスト」は座面を工夫しましたが、たいして軽くはなりませんでした。
ウィンザーチェアは座板の厚みと部材が多いので一般に重めになりますよね。


▲ 座枠の構造


林:そうなんです。「クレスト」では座の反りをなくすために、座枠に薄いベニヤを張って座面にして、人が座ると少し沈む感じにしました。ただ座枠をあまり細くできず、厚くなったりしているので、思ったほど軽くはなりませんでしたね。スピンドルは4本でも良かったんですが、何かほかの回答がないかと色々と模索して、中央の2本が上部では1本になるというデザインにしました。グラフィカルであまり見たことないアイコニックな雰囲気になっていると思います。
また、「クレスト」を作ってみて面白かったのは、座った時に、背中に今までに感じたことのないフィット感があったこと。お尻が大きい人は狭いって感じるかもしれないんだけれど、何かこうハマるというか、それがは面白い発見で、後のアーガイルにつながっていきます。あと、この「クレスト」で達成できなかった軽量化のリベンジを、次の「オフセット」で再び挑んだんです。


もっと軽く!「OFFSET」オフセット

安西:「オフセット」は機能がはっきりとしているので、とても理解しやすい椅子なんですよ。
林:これは、もう座面の厚みをなくして、二つのリングに分けたらどうかというコンセプトからスタートした椅子です。全く同じ大きさのリングを2個使っていて、まず座枠となるリングには脚が刺さっている。もう一方のリングにはスピンドルが刺してあって、それが脚と接する部分で横から留めて嚙み合わせる構造になっています。これがロンドンの「Aram Store」で紹介された時、彼らは「インターロッキング」という表現をつかっていました。さらに、二つのリングを同じ大きさにすることでスタッキングもできるっていう発見もあったんです。


▲ スタッキングした「OFFSET」/ Photo:Takumi Ota



▲ 「OFFSET」原寸模型(発砲ウレタンフォーム製)


スタッキングできるっていうのが驚きです!
林:軽量化とスタッキングって非常に相性がいい。プロトタイプでは色々と試行錯誤をして、リングを曲木じゃなくて無垢材を継いで作りましたけど、製品化する際には、飛騨の方の工場でタモ材を曲げて作ることになりました。
この構造は考え出すのに時間がかかりましたか?よく練られていますよね。
林:これはですね、どうやったら軽くなるのかなっていうのを考えた時に、*8ジオ・ポンティの超軽量の椅子「スーパーレッジェーラ」を思い出したんです。あれには脚に貫がいっぱい付いているでしょう? 部材を分割して細くしていくと全体が軽くなるっていうのが自然の摂理で、部材が少ないとゴツくなってどうしても重くなります。
つまり、軽くするためには部材をとにかく細くして分ける。そこを意識してウィンザーチェアを構成しようと考えてみたら、ストンと落ちてきた解決策でした。
そうなんですね。
で、スピンドルと脚をジョイントしているから、棒材の断面が円でなく平たくある必要があるんですね。
林:そうなんです。
安西:なんか最初からこのかたちだったですね。割り箸で模型を作るとちょうどよかった。


▲ 「OFFSET」5分の1模型

「オフセット」は発展形も考えられそうですね。これでもう完結しているんですか?
安西:アウトドア仕様も作りました。
林:はい、金属で。あと、座面が丸でなくてもできるんですけどそれはまた機が熟したらという感じでしょうか。軽量化に関してはこれでひとまず達成です。


*8 Gio Ponti 1891-1979



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