『くらし中心ー「かたがみ」から始まる』 part3 食のかたがみ 展 だし 2013年10月11日(金)ー12月25日(水)

「かたがみ」は、ものをつくるための道具ですが、それだけでなく、ものをつくるときの基本の知識や体系ととらえることもできます。そこには、先人たちの知恵や経験も、情報として織り込まれているでしょう。
食の分野にも、調味料の配合比率やレシピなど、さまざまな「かたがみ」があります。中でも「だし」は、料理のもっとも基本となる「かたがみ」。それが入ると格段にうま味が増すことを、誰もが知っています。その一方、日常的に自分の手でだしをとる人は、そう多くはないかもしれません。

このシリーズ展では、家具、衣服と、「かたがみ」を基本ツールに、自分でつくることの意味を探ってきました。そして第三回目の本展では、「だし」という「かたがみ」を通して、日常の食を考えてみたいと思います。
「面倒くさい、むずかしい」というイメージのついてしまった「だし」ですが、本展をご覧になると、むしろ、その手軽さに拍子抜けされるかもしれません。そして、うま味としての効用はもちろん、それを使いこなすことで広がる豊かな食の世界にも目を見開かれることでしょう。
それはまた、家庭料理を取り戻すことにもつながっていくはずです。家庭料理は、自分と家族の「心身を養う」もの。先人の知恵が詰まった「だし」を「かたがみ」に、「つくる」ことを自分の手に取り戻したとき、暮らしの中で何かが変わってくるかもしれません。

ATELER MUJI


だし(UMAMI)

 

味物(うましもの)、という言葉は1300年前の奈良時代からある。1603年、日本イエズス会が刊行した日葡(日本・ポルトガル語)辞書に、UmaiとDaxiが収録されている。出汁(だし)は室町時代に生まれた。精進と不精進のだしがあった。

吸物(酒肴)や汁物(飯用)、野菜・乾物の煮物、麺類をよりうまくするだしの正体は長い間判らなかった。1900年代になって日本の科学者が研究して、正体が判明した。
1908年、昆布のうまみはグルタミン酸、1913年、鰹節や煮干、肉類のうまみはイノシン酸、1960年、干椎茸のうまみはグアニル酸と解明された。貝類や日本酒のうまみはコハク酸である。
これらうまみを持った食材を2、3種類組んでだしを取ると、相乗効果でうまみが数倍以上増幅することも判った。神経生理的に癒し効果や満腹感を覚えることも判明した。
だしはうまみを持った食材を水に浸し、または煮てそのうまみを引き出したものであるが、日本独自の文化ではない。実は、鎌倉時代から室町時代にかけて中国の禅寺の精進料理が京都や鎌倉に伝えられ、それに学んだ。

中国はだしを(タン)、フランスはFond(フォン)、イタリアはBrodo(ブロード)という。イタリア料理に欠かせないトマトにはグルタミン酸は多い。韓国の沈菜(キムチ)に入れるアミや鰯の塩辛、中国福建省の魚露(ユイロウ)蠔油(ハオイウ)、東南アジアの魚醤(ぎょしょう)(ニョクマムやナンプラー)、スリランカや南インドで使うモルディブフィッシュなどもうまみはたっぷり。動物の肉や油脂、乳製品にもうま味がある。世界のうまい料理は(かん)(しおからい)・(かん)(さん)(しん)()(じゅう)(しぶい)だけでなく、うまみでも支えられている。

伝承料理研究家
奥村 彪生

食のかたがみ展 だし チラシ(PDF:1.1MB)

時間:
10:00 – 21:00
開催場所:
無印良品 有楽町 2F ATELIER MUJI
入場無料

 

主催:無印良品/企画:くらしの良品研究所/監修:奥村彪生(伝承料理研究家)/企画協力:片岡護(リストランテ「アルポルト」オーナーシェフ)、谷昇(「ル、マンジュ、トゥー」オーナーシェフ)、中村新(産業フードプロデューサー、噺家料理人)、藤井まり(国際精進料理研究家)、脇屋友詞(「Wakiya 一笑美茶樓」 オーナーシェフ)/会場構成:萬代基介(萬代基介建築設計事務所)/グラフィックデザイン:木住野彰悟(6D)