〔中編〕 藤森ウィンザーチェアの世界

Photo:吉次史成

その1:朝をサポートする小ぶりな椅子


藤森さんのウィンザーチェア、個々のプロジェクトが、どのような変遷を経て進化しているか伺えますか?
藤森:今回の展示では、僕は小ぶりのウィンザーを見せようと考えています。順序としては先ほどお話しした合板のものが、最初に手がけたウィンザーチェアです。これは商品になる前の軽量のプロトタイプで、こっちが商品になった「Ruca」です。

▲「Ruca」 / Photo:COMMOC


ほんとですね!たしかに吸い付きます。
藤森:はまるでしょう。当初は現代的な素材として合板を使ってプロトタイプを作ったんですけれど、材がとても細いので、強度がやっぱり足りないっていう話になって。最終的には、フレームはアッシュ材に変えて、座面と背もたれの接合部を太くし、触るとわかるんですが、スピンドルも断面を少し太鼓状にして強度を出しています。座面は合板にアッシュの突き板を貼っています。

一見すると、二脚はまったく同じようだけれど実は、っていう。
藤森:座裏の作りも変えました。脚フレームに一体化した座と背が乗っかってるような納まりです。
で、このスケール感の椅子が結構気に入っちゃって。

小ぶりですけど大柄な人も安心して座われそうです。
藤森:そう、お尻と腰の位置は変わらないので、そこさえしっかりサポートしていれば大丈夫なんです。逆に女性は、座面の奥行きがゆったりした椅子は、膝裏が当たって痛いという話も聞くので。

独自なスケール感です。

▲ATELIER MUJI GINZA 展覧会の会場/ 空間構成:藤森泰司


藤森:そうですね。「Ruca」はウィンザーチェアであることに加えもうひとつコンセプトがあって。実はこれ、朝ごはんの時に使いたいなって思って作った椅子なんです。要は、ゆったり食事をするんじゃなくて短い時間をサポートする椅子。行為と行為の間(あいだ)をきちんと受け止める椅子があったら面白いなと。なので、座面の奥行きは極端に短いんですよ。

なるほど。長く座らなくていい生活の時間帯を勘定に入れている。
藤森:まあ長く座っても大丈夫なんですけれど、椅子に座る行為を含めてデザインしたかったっていう。

ミラノの (*6) カスティリオーニさんのスタジオに行くと「セッラ」 というスツールが置いてある。あの腰かけとどこか似た考え方かもしれませんね。カスティリオーニさんは、いつもうろうろ、じっとしていない人だったから、電話する時にちょっとそこに腰かけたりするけれど長居はしない。そうした人の行為も一緒にデザインしていました。
藤森: そうですねまさに。だから、家の椅子をすべて「Ruca」に統一してもらいたいわけではなくて、ダイニングに一脚、キッチンや玄関に一脚置いてよしっていう椅子を目標にデザインをしていった。すると意外なことにカフェでたくさん使われたり、大学の図書館にずらりと置かれたり・・・。
用途を絞ったら逆に用途が広がっていきました。どこでも使えるっていうものほど疑わしいものはない、特徴があるものの方が逆に用途が広がっていくっていう。その辺が勉強になりましたね。

その考え方はすごく面白いと思います。
藤森:そうですね。で、「Ruca」の後に「Cooper」を作ったんです。



*6 Achille Castiglioni 1918-


▲「Cooper」 / Photo:Ryoukan Abe


藤森:ウィンザーチェアを実測してその構成に興味を持ったので、今度は、その構成部材を最小限にするどうなるかを実験的にやってみようと。椅子の脚は座に刺しただけ、背もたれ(スピンドル)は2本で笠木(背あたり)も最小に。でも座ると気持ちがいい。そんなぎりぎりのサイズ感と表情を目指して。スピンドルは座面を貫通させて後脚に接合し、強度をもたせています。これも機能模型を作って、身体へのフィット感を検証しました。座面は正円ではなく若干楕円です。

円のようで楕円という微妙な違いが視覚的に心地いいです。
藤森:背もたれはスピンドル2本しかないんですけど、当たりも悪くない。

座りも、心地いいですね。


▲「Cooper」プロセス

その2:内と外を繋ぐ空間のための椅子


藤森:この試みの次に、オールスチール製のウィンザーチェア「Flipper」を作りました。
僕は建築家の案件も多いんですが、そこで、内と外を繋ぐような空間の家具を求められることが多くなった。そういうときに、小ぶりのウィンザーチェアは様々な場所に使えるけれど、外に置けるものがなかったんです。外にもウィンザーチェアが置けたらいいな、ウィンザーチェアを外に連れ出したいな、と思って、それでスチール製に。


▲「Flipper」 / Photo:Ryoukan Abe


アウトドア、インドアどちらもいけますか?
藤森:そうですね両方。座面の素材を変えることで、どちらも使えるよっていう仕様にしてあります。内と外が繋がるような空間があって、そういうところに使いたいなあと。

縁側のような場所ですね。
藤森:空間性というか、この椅子がどんな場所で使われるのかということはすごく考えますね。さらに椅子としての実験性を組み合わせてデザインしていきます。

家具は展示するときも、どうしても物の展示になりがちなので、空間性で見せることができるといいですね!
藤森:そうですよね。実際にそれがどこか、公共の場所で数多く集まったときにどう見えるかっていうことはとても大事です。

そうですね。これは先入観なんですけれど、ウィンザーチェアって家庭での使用が主体だというイメージがなぜかあったんですね。でも日本では公共の場所でもよく使われていますね。図書館に持ち込んだっていうのは面白い。たしかにイギリスでは学校の椅子としても使われていたわけですし。
藤森:そうですね。大学の図書館や実習室だったりするんですけど、ずらりといっぱい。さらにオフィスやオフィス内のカフェとか。これは大学のカフェテリアですね。




どこの大学ですか?
藤森:(*7) 山梨学院大学「iCLA」 です。 (*8) 伊東豊雄さんが設計した学部棟の家具を担当したんですけど、コンクリート造の空間に、木の家具「Ruca」がずらっーと入っている。
集合体で見ると圧巻ですね。
藤森:そうですね。カラー展開も増えたのでイメージが変わります。そして背もたれに面がないので抜け感があるんです。だからたくさん並んでも気にならない。その圧迫感のなさが、広まった要因でもあるのかなって思います。カフェにずらりと置かれても、その空間全体が重くならない。トーネットの椅子なんかもそうですよね。
その観察は面白いと思います。
藤森:この写真を撮った時も、なるほど、と思いました。スケールが小さいので数をいっぱい置ける。これだけ並んでスポークの線が何本もあるのに、ふわ〜って空間に馴染んでいく。


*7 山梨学院大学「iCLA」
*8 伊東豊雄(いとう とよお)1941-

▲「iCLA」カフェテリアに並んだ「Ruca」 / Photo:Yuki Omori

椅子の出自が違う?トーネット vs ウィンザーチェア


トーネットの話が出ましたけれども、曲木の椅子から発展した、曲げパイプの椅子もデザインされていますね。
藤森:スチールパイプはよく使いますね。

ATELIER MUJI GINZAで以前、曲木と曲げパイプの椅子の展示を企画したんですけども、もう一つの椅子の原型と進化を探るのはすごくおもしろかったです。藤森さんはトーネットにのめり込んだことは?
藤森:トーネットも大好きなんですけどね。いわゆるパイプ椅子の原型じゃないですか。もちろん好きなんですけど、トーネットの椅子はやはりトーネット社が開発した曲木技術が前提です。要するに家具をプロダクトとしてどうやって開発したらいいかっていう視点で出来ているものだと思うんですが、ウィンザーチェアはもっと自然発生的に生成した民衆家具の一つですよね。そこには、様々な議論があるとは思うんですけども。ウィンザーに興味があったってひとつの要因は、そのプリミティブさなんじゃないかなって気がしています。

たしかに曲木の方は、大量生産との絡みで出てきた技術あっての椅子ですし、歴史的に19世紀までしか遡らない。ウィンザーチェアとは目的や発祥の仕方が違いますね。
藤森:そう、ぜんぜん違うんですよね。書籍『近代椅子学事始』によると、シェーカー、ウィンザーチェア、明の椅子、そしてトーネットの4つが近代の椅子のルーツとされています。でも、トーネットだけちょっと出自が違うのかもしれないって、WDでは話しています(笑)

▲「長く生きる。“DNA”を繋ぐ50脚の椅子」展の会場の様子 / ATELIER MUJI GINZA 2019



そうなんですね!
藤森:とはいえ、広く色んなところに浸透したという意味では確かにそうです。パイプ椅子を生み出した要因でもありますしね。

そうですね。機械というか、新たな技術なしには生まれてこなかった椅子なので、個人的にはトーネットの方が「デザイン」の原型のように思います。
藤森:そうですね。椅子を組み立てずパーツで輸送するノックダウン方式など、すごい発明だとは思います。

その発明に魅了されている部分はあると思うんですけど。たしかにウィンザーとは、本当に出自が違いますね。
藤森:林さんとウィンザーチェアの歴史を分析してみたら、80年代だけあまりデザインされていないことが分かりました。80年代から90年代前半ぐらい、ポストモダンの時代は、おそらく古臭いものとして遠ざけられたけど、60年代70年代にはすごく作られていたんですよ。

(*9) ウェグナーや (*10) タピオとか?
藤森:そうですね、デンマークでもいっぱい作られています。

やはりデンマークが一番多いですか?
藤森:「リ・デザイン」されたものが多いんでしょうね。要するに (*2)「FDB」もそうですけど、「リ・デザイン」の文化ってやっぱりデンマークなんです。ポンと新しいものが出てくるのではなくて、歴史をきちんと引き継いで作るという。その思想は (*11) コーア・クリントから始まり、彼から影響を受けた (*12) ボーエ・モーエンセンや (*13) ポール・ヴォルターらが、実践として古いものを引き継いで作るなかで、一つの原型としてウィンザーチェアが出てきたのではないかと思うんです。ウィンザーチェアは、同じパーツを切って作るなど、やり方によってはとても安価に仕上げられますから、「FDB」には向いていたと思います。



*9 Hans Jørgensen Wegner 1914-2007
*10 Ilmari Tapiovaara 1914-1999
*11 Kaare Klint 1888-1954
*12 Børge Mogensen 1914-1972
*13 Poul M. Volther 1923-2001