
〔後編〕リ・デザイン

音楽とデザインは似ている?
━ 林さんは建築学部で椅子の講義をされていますが、「リ・デザイン」について話されることもありますか?
ものや道具には原型があって、そこからいくつものバリエーションが生まれ、たまに革新が起こる、とか。
林:機会があれば話すこともありますが、学生たちは、そういうことはほぼ意識していないですね。
━ 学生たちが「リ・デザイン」を意識したときのリアクションはどんな感じですか?
若いときは、オリジナリティとかそうしたことにこだわりますけど。
安西:「リ・デザイン」という考え方に興味をもっている学生はどれくらいいるのかな。
林:あまりいないかもしれないです。
安西:ゼロからオリジナルでデザインしたいと思うでしょうね。
林:ウィンザーチェアに関しても構造的に理解するのか、それとも雰囲気みたいなもので理解するのか人によって、学生によってぜんぜん違いますね。どちらが良いということじゃなくて、それぞれの解釈で、こういう椅子が好きというのがあればいいんじゃないかと思っています。
安西:私の場合は、椅子のデザインを手がけてみて、ゼロからではないもの作りの世界があるんだと気付いたように思います。椅子はとくに歴史が長いので、見たこともない椅子を作る意味よりも、歴史のなかで積み重ねられてきたものをどう引き継いで、そこに新たなクリエイティブを加えていくかが大切だと思うようになりました。
すべてのデザインが同様ではないですけれど。そういうものって世の中にいくつかありますよね。
例えば音楽。音楽ってものすごく歴史が長く、いろんな作曲をしてきて、クラシック音楽だとベートーベンがやり尽くしたという話もあるけど、その先に新しい楽曲を作っていく意味や手法を生み出す難しさがある。
そこは椅子の場合と似ていて、基本の構造があるんですよね。基本の構造があって、それをどういう風に編集するか、どういう風に新しくするか、みたいなところでものを作っていく。歴史が長いものって必然的にそうなってくる。それだけデザインするのが難しい。椅子の名作は今までにいっぱいあるのに、なんでまた新しい椅子をデザインするのか?って聞かれると答えづらいんですけど、それが面白いと感じているからやっているんですよね。今まであった歴史的な創造を引き継いで、さらに新しい答えを出していくのが面白いと思うからやっていて、それが最終的に売れたら一番いい。
椅子のデザインは文化的側面がすごく強いジャンルだと思います。新たなものが必要とされているかというと、音楽と同じでそうじゃないかも知れない。けれど、新しいものを生み出していくこと、やり続けていくことが、なんというか人類にとって大事なような気もする。だからやっている。
ただ生きていくならパンと水でいいって終わっちゃうけれど、そうではなくて美味しい料理をつくりたいよね、いい音楽を聴きたいよね、新しい音楽が聴きたいよね、みたいなとことと似ていると思います。
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人の記憶に触れるウィンザーチェア。
その「型」を知って型を破る
━ 同感です。
お二人にも以前は、新しいものを作らなくちゃいけない、みたいな考えに捕らえられている時期もあったんですか?
安西:ありました最初は。
━ そこからデザイナーとしての考え方が変わっていく機会は何だったんでしょう?
安西:私は「ビートル」をデザインして形になり、そこからまた次の椅子を考えている時に、ぐっと変わっていった気がします。それまでは日用品のデザインだったので、白紙からのクリエイティブが成り立っていたんですけれど、「ビートル」を機会にそうではないやり方が椅子の世界にはありそうだ、と考えながら今まで来たと強く感じます。
━ そういう意味でも、デザイナーにとって椅子のデザインと向き合うことって、根本的なあり方を試される重要なプロジェクトなんでしょうか。
林:僕たちの場合、最初の椅子の依頼は「ローコストの木の椅子」という条件がすべてだったので、その新しいアイデアと向き合った。でも、アイデアはロジックの部分であって、それよりも記憶とか、ロジックでない部分を大切にしてみたいと気づいたんです。人の記憶とかもっと直感に訴えかける何かです。
そして、それがどこから来るんだろうと考えたら、記憶ってやはり、小さい時に見たとか、どこかで古い椅子を見たとか、歴史というかなにか長い年月をかけて生き残ってきた形式だったりするんではないかと。
そう腑に落ちたのが2010年だったかな。 で、まずはきちんと型を知った方が良いと思いました。
歌舞伎俳優、坂東玉三郎の座右の銘に (*9)「型破りな演技は、型を知らずにはできない。型を知らずにやるのは、型なしというのだ」っていう有名な言葉があるんです。
安西:この話はウィンザーチェアのプロジェクトでよく話しました。型破りをするなら型をちゃんと理解していないと新しいものはできないんだと。
林:生き残るっていうのは必ず何かしらの理由があって、それは事細かに説明はできないんですけど、生物と同じで淘汰されない強さがあるからだと思うんです。で、そこを大事にしていきました。
*9 玉三郎を襲名した14歳当時、師匠である守田勘弥から言われた言葉(NHK 「プロフェッショナル 仕事の流儀」より)。十八代目 中村勘三郎の座右の銘としても知られ、彼はTBSラジオ「全国こども電話相談室」で、僧侶で教育者の無着成恭が回答した言葉と明かしている。

生態系ともの作り
横断的につながっていくデザイン
━ ATELIER MUJI GINZAで2019年に企画した一回目の「長く生きる。展」で、デザインのDNAを生物学的な視点から見てみたいと考えたんですが、今お話を伺って、お二人はデザインを横断的に捉えているんだと感じました。
最近、デザイン以外のところからインスパイアされたことは何ですか?
安西:林さんは生態系の勉強をしているというか、最近は本棚にデザインの本はなくて自然科学の本とが多い。それが、ものを作るっていうことに繋がっていくんですよね。私も (*10)『サピエンス全史』『ホモ・デウス』 を読んで、やっぱり生物ってものすごいと思いました。
━デザインは、生物学から学ぶべきことが多々ありそうですね。
安西:そうですね、今後地球がどうなっていくか、マテリアルの使い方、プラスチックについてもよく話をします。
林:マテリアルは今後、真剣に気を使っていかないといけない分野ですね。何を使うのがいいのか、現在はまだ正解がない。プラスチックはダメって言っているけど、じゃあ再生プラスチックならいいのか、とか。その辺もきちんと理解していきたいと思っています。
━そうですね。デザイン業界はもっと横断的に学んでいかないと。



林:僕たちは今のところ、マテリアルはラタンが一番いいんじゃないかって。
安西:そうですね、ラタンは再生が可能な素材なんです。
林:成長が早くて長持ちする。この座面のように、ラタンの皮を使ったり茎を使ったりすべて無駄なく使え、伐採してもまたすぐ生えてくる本当にすごい材料だなって。他にもそういう素材ないかなって思っているんですけどね。

安西:自然科学のような分野に興味あるのは、やはりマテリアルの次元から関わって仕事をしてきたことがすごく大きいです。「ペーパーウッド」を手がけた時、<瀧沢ベニヤ>の北海道の森まで行って、滝沢さんから植林の話、林業の話を聞いて、ああそうか…と。



安西:椅子をデザインするにも、その前段階であるマテリアルの調達に様々な仕事があり、日本の林業の様々な問題があり、そういうところまで遡って関わっていけるプロジェクトに私たちは興味があるんです。マテリアルとしての紙にも関わっているので製紙会社さんともよく話をします。彼らも森を持ち、木を持ち、製紙工場を持っているけど、紙が主流の文化はもう終わるから、次はどういうマテリアルを目指すのか、そんな話もしています。
━紙の次の時代ですか。
安西:はい、紙の役割も大きく変わっていくと思います。製紙会社は利益を分散していかないと、というところもあると思います。
林:逆にパッケージは、脱プラの現代、紙の需要が増えているんですよね。
安西:そう、新たな紙の時代になっていくんじゃないかと思っています。
森、林業、木、紙。地球の環境と、原料、素材、そしてそれをどう製品にして使っていくか。私たちが関わらせてもらっているそういったことが、いつかうまく繋がって同じコンセプトを共有するプロジェクトになればいいなと思っています。アイデアはあるんだけれど、こうしたプロジェクトって多方面から人が集まらないとできないので、いつかきっとカチッとピースがはまって始動する時が来ると思っています。
私たちだけで考えていても何も動かないので、企業の人たちに会ったり、そのためのチーム作りをしたり。いつか形になればと、新たなダンボールやアルミ素材のプロジェクトも進めています。
私たち少し変わっていると思います、デザインスタジオとしては(笑)
━変わったデザインスタジオ、大賛成です(笑)。そうしたデザインの新たなパラダイムが間もなく普通のことになる、と想像しています。 【了】