〔中編〕ドリルデザインによるウィンザーチェアの再構成

Photo:Sohei Oya(Nacasa&Partners)


林:ドリルデザインとしてはじめに試みたのは、「ビートル」では、作り方をそぎ落とすこと、「ヴィレッジ」では、ウィンザーらしさを保ちながらどこまで構成要素を削ぎ落とすことができるか、でした。その雰囲気をキープする「らしさ」が一体何によるんだろうということにすごく興味があったので、とにかく部材をミニマムに削ぎ落としたウィンザーチェアを作ろうと思ったんです。スピンドルも何本にするか初めはすごく悩みました。4本だと、うんうん、いい、いいみたいな。で、3本にするとなにか違和感を感じ始めた。

スピンドルが3本の場合も「ビートル」のようにアームがつくと、3本じゃなくなるわけだけれども。
林:そうなんです。3本だけの場合だと上に向いて広がっていったほうがいいんだけれど、そうすると構造上の難しさが出てくるので、色々と試みてこの形に収まりました。
一方、「ヴィレッジ」では、木材の座面に差し込む従来の構造を試みたいと思っていました。でもね、ムクの木材の座面はやはり反るんです。反ってくるので、脚にH型の貫を入れることになる。
安西:脚に違いが出ますよね。典型的なクラシックウィンザーの場合はH型の貫が入るんです。貫がないと脚が広がってグラついてしまう。

▲ 「BEETLE」/Photo:Takumi Ota
▲「VILLAGE」
▲ 貫の構造のスケッチ


林:座面がこう反ってきても、脚が開いたりしないようにするためH型の貫が重要になります。 でも、もし座面が合板だったら反りの心配が少ないので貫が要らないんですけど、ムク材だとどうしても対策が必要になる。そこで、貫を取ってそのかわりに、台座の様なものを座面裏にクロス状にして、で脚をつける。

座面の裏にですか?
安西:はい。けっこう太い部材なので、座面の反り止めになっています。

▲ 座面裏の構造


林:そう、多くのウィンザーチェアは、脚は角度をつけて四方転びで作るんですけど、ホゾが完璧にぎゅっと入らなくて斜めになるから、差し込みの隙間がちょっと残るんですよ。その収まりが気に入らなかったので、このクロス状の反り止めにぴったりと合う角度をつければそれも解決する。
安西:貫があることで、ウィンザーチェアはちょっとモタッとした印象があると私たちは思っていたので、貫をなくしたかったんです。部材を少なくするというコンセプトで進めたと言いましたけど、貫をなくすために上に反り止めをつけて、見た目には4本の脚がすっと出るようにしたのでクラシックなウィンザーチェアとは雰囲気が変わって、すっきりした印象になった。ウィンザーチェアってギシギシと音がなるんですけれど、そういうこともなくなって頑丈になりました。

▲「VILLAGE」開発時の原寸模型


たしかにウィンザーチェアは経年とともに緩んでくる印象がありますね。
安西:そう、緩んでくるとスピンドルもギシギシ、脚もギシギシ鳴る。そうなってきたら解体してまたリペアできるところがいいっていう考え方もあります。
林:ウィンザーチェアは全体のバランスで強度が保たれている椅子だよね、ってよくみんなで話すんです。スピンドルの数を増やすことによって座面に加わる力を分散できて、スピンドルの本数が多ければ1本1本が少し緩く入っていても壊れないんですね。今の木工技術があればホゾと同型の孔をビッて開けて、角度まで精度高く作れますけど、昔、手回しのドリルなどで作っていたころは、孔が若干大きめになっていたりして、隙間を接着剤で埋めています。
安西:だからギシギシいうのよね。
林:手の込んだものはさらに楔などを打っているんですけれど、普通はスピンドルに力を分散させてバランスを保っています。一方で僕たちは、いかにスピンドルを減らすかを考えました。数が少ないと1本1本の部材に加わる力も強くなるので、部材はあまり細くできない。精度よくホゾを開け、太めのスピンドルでカチッと止めちゃうという作り方です。
安西:精度の高い現代だからできる形であって、おそらく200年前はこれでは長持ちしなかったでしょうね。

そういう意味で、ドリルデザインとしてはあえて手よりも機械ならではの精密さでスピンドルも脚も固定して仕上げ、ギシギシ感のない椅子を作ったんですね。
安西:「ヴィレッジ」は量産を前提とした現代の形を意識してデザインしています。



▲ 「CREST」/Photo:Ryokan Abe

軽さを目指してみたけれど・・・「CREST」クレスト


安西:こちらは「クレスト」です。製品化はされていません。

やはりチャレンジングなプロジェクトですか?
林:「クレスト」は「ヴィレッジ」の延長線上のプロジェクトなんです。「ヴィレッジ」が重めなので軽量化を目指しました。

形式はボウバックですね。
林:そうです。ミニマムなボウバックにできないか、一番シンプルなボウバックの構成ってどんな形だろうと色々と考えて、さらに軽量化を目指してデザインした椅子です。背は曲木ではなく、いわゆる「スーパー成型」という、木を薄くスライスして型にはめて、接着しながら曲げるという技術。

無垢材にしか見えませんね!
林:普通の成型合板だと木目を交互に重ねるので断面にどうしてもストライプ模様が出るんですが、これは一本の木をスライスして曲げているので無垢材にしか見えないんです。「クレスト」は座面を工夫しましたが、たいして軽くはなりませんでした。

ウィンザーチェアは座板の厚みと部材が多いので一般に重めになりますよね。

▲ 座枠の構造


林:そうなんです。「クレスト」では座の反りをなくすために、座枠に薄いベニヤを張って座面にして、人が座ると少し沈む感じにしました。ただ座枠をあまり細くできず、厚くなったりしているので、思ったほど軽くはなりませんでしたね。スピンドルは4本でも良かったんですが、何かほかの回答がないかと色々と模索して、中央の2本が上部では1本になるというデザインにしました。グラフィカルであまり見たことないアイコニックな雰囲気になっていると思います。
また、「クレスト」を作ってみて面白かったのは、座った時に、背中に今までに感じたことのないフィット感があったこと。お尻が大きい人は狭いって感じるかもしれないんだけれど、何かこうハマるというか、それがは面白い発見で、後のアーガイルにつながっていきます。あと、この「クレスト」で達成できなかった軽量化のリベンジを、次の「オフセット」で再び挑んだんです。

もっと軽く!「OFFSET」オフセット


安西:「オフセット」は機能がはっきりとしているので、とても理解しやすい椅子なんですよ。
林:これは、もう座面の厚みをなくして、二つのリングに分けたらどうかというコンセプトからスタートした椅子です。全く同じ大きさのリングを2個使っていて、まず座枠となるリングには脚が刺さっている。もう一方のリングにはスピンドルが刺してあって、それが脚と接する部分で横から留めて嚙み合わせる構造になっています。これがロンドンの「Aram Store」で紹介された時、彼らは「インターロッキング」という表現をつかっていました。さらに、二つのリングを同じ大きさにすることでスタッキングもできるっていう発見もあったんです。

▲ スタッキングした「OFFSET」/ Photo:Takumi Ota
▲ 「OFFSET」原寸模型(発砲ウレタンフォーム製)


スタッキングできるっていうのが驚きです!
林:軽量化とスタッキングって非常に相性がいい。プロトタイプでは色々と試行錯誤をして、リングを曲木じゃなくて無垢材を継いで作りましたけど、製品化する際には、飛騨の方の工場でタモ材を曲げて作ることになりました。

この構造は考え出すのに時間がかかりましたか?よく練られていますよね。
林:これはですね、どうやったら軽くなるのかなっていうのを考えた時に、(*8) ジオ・ポンティの超軽量の椅子「スーパーレッジェーラ」を思い出したんです。あれには脚に貫がいっぱい付いているでしょう?部材を分割して細くしていくと全体が軽くなるっていうのが自然の摂理で、部材が少ないとゴツくなってどうしても重くなります。
つまり、軽くするためには部材をとにかく細くして分ける。そこを意識してウィンザーチェアを構成しようと考えてみたら、ストンと落ちてきた解決策でした。

そうなんですね。
で、スピンドルと脚をジョイントしているから、棒材の断面が円でなく平たくある必要があるんですね。
林:そうなんです。
安西:なんか最初からこのかたちだったですね。割り箸で模型を作るとちょうどよかった。

▲ 「OFFSET」5分の1模型


「オフセット」は発展形も考えられそうですね。これでもう完結しているんですか?
安西:アウトドア仕様も作りました。
林:はい、金属で。あと、座面が丸でなくてもできるんですけどそれはまた機が熟したらという感じでしょうか。軽量化に関してはこれでひとまず達成です。


*8 Gio Ponti 1891-1979

独自の背あたり。
「アーガイルバック」の誕生。


林:「アーガイル」は、「クレスト」をデザインした時にプロトタイプに座って感じた「立体的な背あたり」と「腰のあたり」がおもしろいんじゃないか、というところからスタートしました。

▲「Argyle」 / Photo:Takumi Ota


林:人間工学的にはヒトの背骨はS字カーブを描いていて、椅子の設計もそれをどこまで取り入れるかというのがあるんですが、そういう視点からみてもウィンザーチェアで腰のサポートができたら、クラッシックと現代の融合になるんじゃないかと思ったんです。アイディアとしては、スピンドルをクロスさせてその角度の具合で立体的な座り心地をつくっています。

ちょっと押されるような座り心地がいいですね。
林:直線を何本もつかってクロスさせていくと見えない曲面(曲面的な触り心地)ができるじゃないですか、それをヒントにしました。

▲「Argyle」スケッチ
▲「Argyle」デザイン検討のためにスタジオ内で製作される1分の1模型


安西:この椅子は、スピンドルの角度がすべてなので設計がとても大変でした。

図面上ではもちろんいろんなバリエーションが書けるけれども、実際の座り心地は座ってみないとわからないじゃないですか、そういう場合はいくつもプロトタイプをつくってもらうんですか。
安西:この椅子は図面で設計できるものじゃなくて、スタジオ内で1分の1の模型で背あたりを検証しました。スピンドルだけ木で削り出して、発泡材を削り出してつくった座面のモデルに突き刺して角度を検証するんです。さらに本を積み重ねて高さをつくって実際に座れるようにします。

すごい、そういう風に検証しているんですね。

▲「Argyle」座り心地検証の様子
▲「Argyle」最初の木製プロトイプ /Photo:FULLSWING


林:私たちは1分の1モデルを必ずつくります。実際のスケールでみることで雰囲気などもしっかりつかめる。背当たりを探るため、座高まで本を積んで座って、背の部分に丸棒の位置や角度を何度も調整して、これがいいかな?どうかな?とか言いながら背あたりを試しました。スピンドルを斜めに構成することでアーガイルのパターンが生まれ、この背もたれを僕たちは「アーガイルバック」って呼んでいます。
安西:ここが私たちのオリジナルのアイディア、という部分ができたんじゃないかと思っていて、次はもう少しクラッシックな構造で「アーガイルバック」をやりたいと考えています。

ドリルデザインならではのリ・デザインになっているわけですね!
安西:はい。ひとつ武器ができて、より伝統的なものでも勝負できそうな気がしてるんです。いまはまたいろいろ思考錯誤してます。

▲ラウンジチェア「WR」TOU /Photo:Takumi Ota

ウィンザーチェアの進化は続く。
ラタン製への挑戦。。


林:ラタンのシリーズ「WR」は純粋に、ウィンザーチェアをラタンで作るとどんなのになるかなっていう、興味から始まりました。結果的に、ラタンは軽いし曲げも自由にできるのですごく向いていますね。その代わり、脚の構造はけっこう難しく、(クラシックなウィンザーチェアの構造にはない)ボウバックのフレームを脚にまでつなげたり、と構造的には色々と工夫をしています。

とても綺麗な仕上げですね。どちらで製作しているんですか?
林:これはインドネシアのチルボンってところですね。

インドネシアは編みの技術で有名ですけれど、スピンドルを刺すなど、従来の彼らの技術でない部分も全行程、同じ工場で行なっているんですか?
林:そうです。ウィンザーチェアって元来は、スピンドルがいっぱいあるものを手仕事で作っていたじゃないですか。インドネシアのこのラタンメーカは今もすべて手仕事です。だからスピンドルが多い椅子をかつてのように作る作業も向いているのかなって感じがします。

挑んでみたら難なく習得できて、製作してくれている感じなのかもしれませんね。

▲インドネシアの職人による手仕事の様子
▲「WR」デザイン検討のためにスタジオ内で製作される1分の1模型


これはシリーズで展開しているんですか?
安西:はい、シリーズ展開で、ウィンザータイプはラウンジチェアとサイドチェアと2種類あります。
林:ラウンジチェアは (*5) ハンス・ウェグナーの「ピーコックチェア」くらい大きいですよ。
「ピーコックチェア」ってスケール感がとても面白い椅子で、ウィンザーチェアをあのボリュームでデザインしたのはウェグナーが初めてなんじゃないかなと思っています。完全なるラウンジチェアですね。
それまでのウィンザーチェアって、ラウンジチェアなのかダイニングチェアなのかよく分からないボリュームみたいなものが伝統的に多いんです。「リキウィンザー」も座面がちょっと低くてラウンジっぽいボリュームなんですけどダイニングチェアだったりする。コテコテのラウンジチェアのサイズ感でデザインするのに、完全なるラウンジチェアではないんです。そんな点からも、ウィンザーチェアってやっぱりおもしろい椅子だなあと再認識させられましたね。

▲本展覧会 Gallery1にて展示中の「ピーコックチェア」


ところで、このシリーズにはウィンザーのラインだけでなく「ミンチェア」形式もあるんですね!
林:はい、ウィンザーのラタン「WR」のほかに、シェーカーのラタン「SR」、そしてミンチェアのラタン「MR」があります。

椅子の潮流を学んだ人が見たら、えーって驚きますね(笑)
安西:椅子の教科書みたいな(笑)
林:ラタンをこうしてクラシックな椅子の形式に応用していくと、(従来の)構造から逸れて独特なにならざるを得ないものなので、「リ・デザイン」し甲斐があってとてもおもしろいですね。

▲シェーカー「SR」TOU / Photo:Takumi Ota
▲ミンチェア「MR」TOU /  Photo:Takumi Ota


マテリアルが変わることで、意図的でなく自動的にリ・デザインされるんですね。
ドリルデザインは、椅子のシリーズのなかにこうして異なる形式を採り入れていますけど、なかでも虜になったのがウィンザーだったという点は興味深いです。
林:そうですね。ウィンザーチェアーの構造って、要は脚と背が繋がってないじゃないですか。座面で一回分断されるでしょ。それが、ほかの椅子と違う見た目のなんとも言えない印象を生むというか。

脚と背が分断されることでもたらされる雰囲気…
林:これはシェーカーですけれど、この4本、背柱が脚と繋がるっていうのがわりと一般的な椅子の認識になると思うんです。でもウィンザーになるとぜんぜん違うんですよね。

▲「ビアガーデンの椅子」


林:これは「ビアガーデンの椅子」って呼んでいるんですけど、ドイツとやスイスなど比較的高緯度の場所で針葉樹を使って作る椅子ですね。
安西:針葉樹は柔らかいので棒にしても弱いので、木の塊で椅子を作りますよね。針葉樹の地域の人たちは、この「ビアガーデンの椅子」のような面材の椅子を作っていて、広葉樹ではウィンザーやシェーカーのような棒材でつくった椅子だった。

針葉樹と広葉樹の生息地域によってそれぞれ、ものの構造やフォルムが自然に決まってくると。
林:いろいろな椅子を見てきたなか、そんな気がしています。材料が構造や部材の太さを決めているんだなと。

ドリルデザインは、ウィンザーチェアをラタン製にまで進化させたわけですけど、これからも現代のウィンザーに挑みますか?
林:やるんじゃないでしょうか(笑)、まだ分からないですけど。

これからさらに挑戦しようとしていることもありますか?
林:ウィンザーのラウンジはやりたいなと思っています。ラタンのラウンジをやった時に<Time & Style>からこのタイプを木で作ったら? という話もありましたが、すでに「ピーコックチェア」が存在するので難しいなんて話もしました。
「ピーコックチェア」とはぜんぜん違う構造でボリューム感のあるものを作ってみたいなという、アイディアの断片みたいなものがいくつかあったりするんですけどまだ模索中ですね。

まだまだウィンザー道は続く
安西:はい、ゆっくりと。