藤森泰司さんの場合 <6>


これからのウィンザーチェアへ

これから挑戦したいウィンザーチェアはありますか?
藤森:気になっているものの、まだ取り組めていない形式ですね。
アームのある、ゆったりとしたウィンザーチェアならどう作るか、とか。それで、ヴィンテージの椅子をいっぱい集めているんですよ。これは *21アーコールのスモーカーズチェア 。こうしたスケール感のものです。


▲アーコールのスモーカーズチェア


綺麗ですねえ。これはいつ頃、どこのものなんですか?
藤森:おそらく60年代のアーコール製です。アーコールは馴染みの家具屋さんがイギリスから買ってきて、経年による塗装の劣化やゆがみを、一度全部解体して磨いてリペアして、再度組み立て直しています。
リペアの魅力もあって、綺麗なだけでなく味わいがあります。
藤森:そうですそうです。要するに、古いものもきちんと手入れすると魅力的になるんですよ。いいものって必ずしも新しいものじゃない。長く使われた後に、引き継がれてまた使われていく家具もある。そして、ヴィンテージ家具屋さんとか、長生きさせることで仕事が成り立つ人たちもいる、需要があるってことですよね。
そうですね、デザインして作って売って終わり、でなく、そこに使い手とリペアする人が入るっていうのは、本来あるべき健康的なもの作りに感じますね。
藤森:ヴィンテージ家具屋さんでも、リペアの仕方やその程度は様々です。僕が良く購入しているお店は、「アーコールのチェアを一番丁寧にリペアする店になりたいと思っている」って仰ってました。
そうした家具店との関係が結べることも財産ですね。




民芸とウィンザーチェア、

藤森さんは民芸調のウィンザーチェアについてはどう思いますか?
藤森:日本でウィンザーチェアをよく作っていたのは、歴史的に *22松本民芸家具とかクラフト的な領域の方が多いでしょうね。 ウィンザーチェアって元はカントリーな要素があるじゃないですか。農村的っていうか。僕らの世代だと『大草原の小さな家』とか、ドラマのシーンで使われていたり。
日本でウィンザーチェアを一般に広めたのは、 *23柳宗悦、 *24濱田庄司と *25バーナード・リーチが1920年代にイギリスから持ち込んできたのが始めだと言われています。民芸運動とウィンザーチェアがかなりがっしり繋がっているところは面白いなあと。
藤森:そうですね。 民芸調の方はスタイルがしっかりあって、「道」になっていくっていうか、ウィンザーチェア道みたいなものがある。この職人はこういう作り方、あの人はああいう作り方みたいな。
松本民芸家具、飛騨産業やカリモクなど多くの家具メーカーも作っているし、歴史な形式をきちんと継承しているものは、それはそれですごくいいなと思います。ただ、僕らはやはりデザイナーなので、ウィンザーという椅子の形式を「リ・デザイン」して、“今”の椅子にしたいっていう思いが強い。そうしないと意味がないっていう。
僕らはあくまでウィンザーチェアの成り立ちとか、この椅子がなぜこんなにも長く生き続けてきたのか? ということに興味があるので、その感性を現代のデザインとして置き換えたいっていうことなんですよね。だからWDで皆が作っている椅子でも、厳密に言えば、構造的にはウィンザーチェアじゃないものもあります。
「ウィンザー道」を求めているわけではないので、構成は逸脱してもいいわけですよね。



*22 松本民芸家具 昭和19年に長野県に設立された家具メーカー。
*23 柳宗悦(やなぎ むねよし)1889-1961
*24 濱田庄司(はまだ しょうじ)1894-1978
*25 Bernard Leach 1887-1979




伝えたかったこと。なぜ作るのか?

ウィンザーチェアのルーツから一種の“DNA”が継承されていく、という「リ・デザイン」のテーマのほかに展覧会でとくに伝えたいことはありますか?それを探ることでまた新しいものが生まれて、次に繋がっていくという…。
藤森:そうですね。歴史的なこと、「リ・デザイン」のことにも通じるんですけど、デザインというものが突然ポッと生まれるものじゃなくて、過去に起きていた事象とか、使われてきたものから何かが進化していたり、長く生き続けてきた理由がある。そこを探っていくことで、また新しいものが生まれて、次に繋がっていくっていう…。ちょっと大げさかもしれないけれど、デザインがどうやって生まれてきたか、そういうことが伝わったらいいなって思います。
デザインって新規性のみを求めるものではなくて、長く続いていくものを作るためには、継承と進化というプロセスがあるっていう。特に椅子のデザインはそうかもしれないですけど。
洋服もそうですけど、もう基本的には椅子って完成された形式で名作椅子も山ほどあるのに、毎年「ミラノサローネ」に行ったら、なんでこんなにたくさん新作が発表されるのかってよく考えるんです。もちろんそれは経済活動でもあります。でも、その根本には、自分たちが生きていく世界は自分たちで作るんだっていう衝動があるから、やっぱり続いていくと思うんです。
そうですね。それでないと、生活に必要なものが過剰な時代にものを作る意味はなくなってしまいます。
藤森:そうなんですよね。だからこそ、カスティリオーニさんじゃないけど、「物の地図帖」があるとしたら、そこに載るべき新種を作らないといけない。それは一見新種に見えなくても、デザイナー自身がここを工夫しているとか、あっ、これはありそうでなかったんじゃないかとか、見た目は大きく変わらないけど、作り方がまったく違うことで物の質が変容するとか。なにか一つでもあればいいと思っています。それが一つもなかったら、何もやらない方がいいかなって。
もの作りは、それくらいの覚悟で挑まなければやる必要がない。
藤森:はい、そのくらいの覚悟で。



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【了】



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