イノダ+スバイエの場合 <1>


Photo:Francesco Dolfo


INODA+SVEJE

INODA+SVEJEは、ミラノから10年間にわたって《WD》でウィンザーチェアの研究を続けてきました。きっかけはお二人がやはりウィンザー好きだったからでしょうか? 
イノダ:えー、実は私たち、ウィンザーチェアに興味を持ったことがなくって、街で見かけても、何か思いを巡らすということはなかったです。《WD》に参加するまでは考えてみたこともなかったんです(笑)
そうなんですか!藤森さん、ドリルデザインとはスタート地点がぜんぜん違うんですね。
イノダ:はい、私たちはウィンザーに夢中というわけではありませんでしたね。
《WD》に参加して興味を持ったということですか?
イノダ:藤森さんとドリルデザインは、もうウィンザーが大好きで愛してやまない。それで意気投合して《WD》をやってみようと盛り上がって、で、2組より3組、と私たちに声をかけてくれたという経緯があります。
私たちの場合、歴史的な椅子について考えるときはどちらかというとシェーカーの方であって、ウィンザーについては彼らと出会うまで考えたことがなかったんですね。なので、彼らがこんなに熱中している形式の椅子ってなんなのだろうということに興味を覚えたました。なぜ今まで知ろうともしなかったんだろう、って。
そして、声をかけてもらった当時、私たちは、日本との繋がりがまったくなかったので、みんなで一緒にできるのなら楽しそうだと思って、やるやる!と(笑)
それからは、ウィンザーチェアについての本をたくさん買って勉強し始めました。




藤森さんとドリルデザインが、ウィンザーチェアの世界觀に魅了され、のめり込んでいる傍で、イノダ+スバイエは、違う距離感で研究していったというのは興味深いです。
イノダ:そうですね、私たちの熱量はたしかに彼らとは違うけれど、一から勉強して、製品化するときの考え方とは違う視線でコンセプチュアルにウィンザーを研究していこうと考えました。
純粋な研究活動であって挑戦なんです。
研究会ってそういうものですものね。
イノダ:そう、そしてウィンザーチェアを注意して見るようになって、歴史を学びはじめて、次第になにか「違和感」のあるタイプに惹かれていったんですね。ここでいう「違和感」というのは、サイドテーブル付き、ゆりかご付き、引き出し付きなど、椅子であるだけでなく、プラスアルファのアクセントのあるもののことです。そこが愛くるしくてユニークだなあと。




▲「SNOW FLAKES」



「スノー・フレークス」の誕生。
そこから生まれた「問い」。

こうした経緯を経て、アームに小さなテーブルの付いた「スノー・フレークス」が生まれるんですね。
イノダ:ええ、何しろウィンザーチェアのことをまったく知らなかったので、初めの一脚では、プロポーションはシンプルでベーシック、超クラシックなタイプにしようと決め、そこに私たちが惹かれたプラスアルファの要素を取り込みました。
さらに大切なのは、いかに現代を生きる椅子にするかです。そこで、現代の素材である *1人工大理石「コーリアン® 」を採用することに。コーリアンは *2CNCルータ で木と同じように削れるんですよ。



▲ 人工大理石の加工の様子




たしかに異素材であるコーリアンを使用するという試みには驚きがありました。そして塗装ではない白、素材の白が利いていますね。



▲ 「SNOW FLAKES」ディテール




イノダ:新素材や、これまでウィンザーチェアには使われなかった素材を組み合わせて、何かしら新しい現代の椅子にしたいと考えて持ち込んだんです。ところが…
コリアンは衝撃が加わると欠けやすい素材なので、本当に大変なプロジェクトになりました。
結果的にとっても重くて、梱包もかさばり、送料もかかってしまったんです。私たちの活動の拠点はミラノなので、イタリアでプロトタイプを製作して日本に持っていくことになる。その配送面についてまでは考えが及んでいなかったんです。
この時は *3ノックダウン形式ではなかったんですか?
イノダ:ええ、まだです。配送、そして展示の準備は私一人だったので、もう重くて大変で…。その苦労が教訓となって、外国から運んでくる場合の方法や改良点を考えて、ノックダウン形式を模索するようになったんです。
「スノー・フレークス」は、プロポーション、素材、座り心地については、ほぼ満足のいくところまで持っていけたと思っています。そして、この時に問題点が次のプロジェクトのコンセプトへとつながって、ノックダウン形式を後に続く3脚で突き詰めていきました。
そうだったんですね、思いもよらぬ展開です。
今回の展示でINODA+SVEJEは、「スノー・フレークス」、そしてそこから始まったノックダウン形式模索中のプロトタイプ、そして完成形、計3脚を展示しています。3脚が一連となっていて、そこにデザインの「問い」と「答え」が表現されている点がおもしろいと思いました。

*1 アクリル人工大理石 DuPont™ Corian®
*2 「Computer Numerical Control(コンピュータ数値制御)」のルータ・マシン
*3 組立ては現地においておこなう輸出方式。





【次回:6月下旬公開予定】
/スバイエにとってのウィンザーチェア



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