Part2/リ・デザインという未来へ



気づきのかたち
未来と記憶を繋ぐデザイン

椅子のデザインに取り組むとき、デザイナーはいつも途方もない領域に投げ出される感覚があります。「座る」という自明の理の先に、何を目指すのか? ということです。それは、素材や製作技術の可能性なのか、使いやすさなのか、あるいは新しい構造を見出すことなのか、彫刻的な美しいフォルムをつくることなのか…おそらく、そのどれもが椅子を新しくデザインするきっかけにはなります。ただ、そうしたこと以外に、何かもっと、椅子という道具が放つ掴みがたい “魅力” があるようにも思うのです。それは、椅子の長い歴史の中から、使い手に受け継がれてきた「記憶の痕跡」のようなものなのかもしれません。

17世紀後半にイギリスで生まれたとされる、ウィンザーチェアという椅子があります。この椅子は、それ自体が誕生した時代の記憶をずっと残したまま、現在もつくられている椅子のひとつです。「Windsor Department」は、そうした「記憶の痕跡」を持つ椅子に、かねてから興味を抱いていたデザイナー3組により結成されたデザイン研究会です。 3組のデザイナーは、ある時、この古い椅子の形式になぜこんなにも惹かれるのか?ということに、ふと疑問を持ちました。この問いはとても大事なことでした。なぜ惹かれるかを考えることは、新しく椅子をデザインする強い理由になるからです。デザイナーにとっての研究とは、直感をきっかけにリサーチした内容を、言葉ではなく形(かたち)にすることです。ゆえに、研究会がスタートしてから約10年、それぞれの方法で「ウィンザー的なるもの」に向き合い、新たなウィンザーチェアをデザインしてきました。

「ウィンザー的なるもの」に明確な答えはありません。しかし、感覚的な部分を形として発見していくことは、デザイナー達に多くの気づきをもたらしました。それはウィンザーチェアという強い形式があったからこそだと思っています。また、デザインを考えるとき、古い/新しいに過度に囚われることなく、もっと持続性のある広い地平へ連れて行ってくれたのも、この試みの大きな収穫でした。
3組のデザイナーの、 “気づきのかたち” を体感していただけたら嬉しいです。

《Windsor Department》
藤森泰司